賢人に聞く「グローバル・ビジネス」の新機軸(第1回)
2009年 7月 03日(金曜日) 22:45
チャイナBPOはグローバリゼーションの手段(上)

アクセンチュア出身の海野氏率いるスウィングバイ2020は、中国ビジネスにフォーカスしたユニークな経営コンサルティング会社である。同社が今、注力しているビジネスは、日本企業の業務処理(ビジネス・プロセス)の一部を中国に移管し、業務受託するBPO事業。そのチャイナBPO事業に込められたグローバル化支援ビジネスの狙いやBPOの効果的な進め方、BPO導入のメリットと目指すべきゴールなどを聞いた。
コア業務の中国移管で優秀な中国人財を取り込み、
企業力を高める経営改革がいま、求められている!
なぜ、いまチャイナBPOなのか?
篠﨑:欧米で産声を上げたビジネス・プロセス・アウトソーシング(Business Process Outsourcing :BPO)ですが、御社は中国に業務移管する「チャイナBPO」を提唱し、中国・大連を拠点にBPOサービス事業を展開しています。チャイナBPO事始めの経緯と狙いをお聞かせください。
海野:BPOは1991年に英国の国際石油会社ブリティッシュ・ペトロリアム(現BP)社が導入したのが始まりで、BP社は北海油田地域事業部門の財務・会計機能を社外に移管、業務委託するアウトソーシング戦略により、結果として50%のコスト削減に成功した。これが世界で最初のBPO事例でした。このBP社のプロジェクトを手掛けたのが、私が当時、勤務していた米国系総合コンサルタント会社のアクセンチュアです。BP社の成功を受けてアクセンチュアでは、企業が自社の業務処理(ビジネス・プロセス)の一部を外部の業者に委託(アウトソーシング)するBPO支援事業をワールドワイドに展開することになったわけです。また、アクセンチュアはインドを除くアジア11カ国のバックオフィス機能を中国・大連に集約し、2003年に大連デリバリー・センターとして稼動させ、現在に至っています。

私自身、アクセンチュアの大連プロジェクトに関与したこともあって、中国にバックオフィス業務などを移管するBPO事業に早くから関心を寄せてきましたが、本格的にBPO事業を手掛ける直接の契機となったのは、住友化学グループからのオファーでした。住友化学グループの給与計算業務会社が海外赴任者の給与計算業務と海外出張者の出張旅費精算業務を中国に移管するプロジェクトに関与し、弊社が業務移管計画の策定から現地要員の採用・教育訓練、事業拠点の確保に至る一連のBPO支援サービスをフルセットで受注し、大連子会社で業務受託したのが始まりです。
BPOは一般的には、本社業務のコスト削減施策と考えられがちですが、私の考えは違います。チャイナBPOを起爆剤として、日本企業が中国の人的資源、すなわち優秀な中国人のスキルとパワーとバイタリティを活用することによって、日本本社の業務プロセスを抜本的に見直し、経営組織を大胆に改革し、日本企業が直面している過酷なグローバル競争に対処する経営改革を誘発し、グローバル化を促進するが真の狙いです。
チャイナBPOの導入効果と目標
篠﨑:海外でのBPOは、IT(情報通信)分野のオフショア開発やコールセンター業務の延長線上で受け止められがちですが、御社のチャイナBPOは、そうした単純な外注型の海外業務移管とは違うということですか。その違いとは何でしょうか?
海野:私はアクセンチュアで32年間、日本企業を相手に経営コンサルティングの仕事をしてきました。その経験を踏まえて言えることは、いま、日本という国家も企業も戦後60年の還暦を過ぎて制度疲労を起こし活力を失い、躍進するアジアや世界の新興国に対して政治はもちろん、産業、経済の面でもリーダーシップを発揮できず、国力が衰退モードに入ってしまった感があります。日本は1980年代までは、躍進国家の面目躍如たるものがありましたが、90年代に入って“失われた10年”を経験し、さらに2000年代を迎えてもなお“失われた10年”の下降トレンドから抜け出せずに低迷し、長期低落傾向が続いているのが現状です。
かねてから世界とアジアにおける日本の位置づけを明確にし、日本と日本企業の進むべき針路をはっきり示すべきとの思いを抱いてきました。そして今、21世紀最初の10年間でさらに加速、拡大したグローバリゼーションに適切に対処するには、中途半端な改革では激化するグローバル競争に耐えられないとの認識に至りました。その処方箋として、日本の地盤沈下を食い止め、日はまた昇る旭日ニッポンを蘇らせるには、産業面では日本の企業が中国人の優れたスキルとパワーを積極的に組織の内部に取り入れ、活用していく仕組みをつくるべきとの結論に達し、その触媒としてチャイナBPOを位置づけることにしました。
ですから、私が提唱するチャイナBPOは、単純にコスト削減が目的ではなく、中国への業務移管によって本社の業務機能のレベルアップと社員の意識改革、組織風土の改革を同時並行的に推進していくトリガー(引き金)にするという考え方です。時には、BPOで業務コストが半減するというセールストークも使いますが、私がBPOを通じて本当にやりたいことは、こうです。
日本の田中さん、鈴木さんの仕事をそのまま中国に持って行って、陳さん、劉さんに引き継いで業務遂行するだけでも、結果として30%以上のコスト削減になる。そして、それが定量的なBPOの効果測定の指標にはなるけれども、弊社のBPOは単なるコスト削減が目的ではなくて、業務移管した残りの国内業務がグローバル・スタンダードに対応した業務にレベルアップし、業務に従事する1000人、2000人の社員全員の業務マインドを変え、会社全体の労働生産性を上げる。そうすることによって、日本企業が真のグローバル経営を遂行できるように体質改善を促す。これがチャイナBPOのゴールです。
聞き手:ジャーナリスト・篠﨑晃
<プロフィール>
海野惠一(うんの・けいいち)
1948年1月14日生まれ。東京大学経済学部卒業。1972年、監査法人アーサー・アンダーセン(現アクセンチュア)に入社。同社名古屋事務所長、経営戦略サービスグループリーダー、石油業アジアパシフィックリーダー、素材・エネルギー本部統括パートナーなどを歴任し、2001年に代表取締役に就任。2004年、スウィングバイ2020株式会社を設立、代表取締役社長に就任。現在、スウィングバイ2020㈱の中国現地法人・新速佰管理咨詢(大連)有限公司董事長、新速佰管理咨詢(上海)有限公司董事長を兼任し、中国に業務移管するBPO事業をコア・ビジネスとして、中国企業との協業を通して日本企業のグローバル化を支援するチャイナ・ビジネスに邁進している。






